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フィクションか、ノンフィクションか。

恋愛としての終わり

高校入ってすぐは朝、駅で待ち合わせして同じ電車にのって、帰りも駅で待ち合わせして一緒に帰ったりしていた。

でもだんだんとお互い勉強や部活が厳しくなってきて時間が合わなくなったうえに

私の家も、引っ越しをすることになった。

 

兄の暴走がますますひどくなって一緒に住めないという理由で、兄に場所を知らせないまま、引っ越したのだった。

 

地元からA駅までは電車で10分で着いたのに

引っ越した先のC駅からA駅は、40分くらいかかった。

 

ケータイは持っていたから、森田とは連絡できたけど、会える時に連絡入れて、会えそうなら会う、そんな感じだった。

地元の駅で降りて、駅の近くの神社で話して、バイバイしてまた電車に乗って帰る。

一回だけ、森田の高校に侵入して部室で話してたこともあったっけな。

会えても、中学の頃みたいにゆっくりはいられなかった。

 

 

 

 

 

高校での生活はまじで最悪で

中学で他の小学校と合併を経験してる子は一度経験してるのかもしれないけど

小、中と同じメンバーで育ってきた私は、地元中学では通じるノリが通じなかったりで、友達付き合いに苦戦していた。

地元の友達はいいヤツばかりで、恵まれてたんだなあ、なんて思ったり。

これは私だけでなく、地元の他の子もそう感じることは多かったみたいで、それぞれ高校で苦戦していた。

もちろん、中には高校の方が楽しいって子もいたけどね。

新しい人達の中で順応してくって、大変なんだなあ、としみじみ感じていた。

 

 

 

さらには毎日ある小テスト、厳しい校則、地元から離れて慣れない土地で、地元友達ともすぐには会えない生活。

 

寂しいなとか、大変だなと思うことはあっても

森田も頑張ってると、自分に言い聞かせて。

ネックレスを見ては、頑張ろうと思っていた。

 

 

 

 「森田は?学校どう?」

 

「俺はね〜、楽しくやってるよ。先輩厳しいけどやっぱ上手いから、すげぇなあって尊敬できるし。

友達も馬鹿できるやつがいて、うん、楽しい。」

 

「そっか。」

 

「俺、地元だと何かとリーダー役やらされてたけど、ほんとはそういうの向いてないからさぁ。

ちょっと気が楽だよ。」

 

なんていう森田を、少し遠く感じた。

(実際、森田は普段省エネなので置き物会長みたいな感じで“会長動け!”とか言われるタイプだったけど、動じない雰囲気と、ここぞという時にまとめあげてくれるタイプだった。)

 

 

 

 同じ団体にいると、その団体の中での自分の役割とかポジションとか、なんとなく決まってきちゃう感じってある。

だから、こうして一歩外に出てみて、新たに自分を顧みる時、今まで気づかなかったこととかもあって。

そうか、私はまだまだ、森田のことわかりきれてなかったな、なんて思ったりした。

 

 

中学の頃と変わったのは、今度は私が森田の支えになる、と決めていたこと。

部活を頑張りたいと言っていたから応援したかったし

中学の頃は何か悩みがあれば森田に話していたけど自分のことに集中してほしい、という想いから私自身のことはほぼ話さなくなっていた。

 

 

それでも、森田の双子のあー子ちゃんが同じ高校だったから、大変さは知っててくれて

 

「花、大丈夫?A高、毎日大変そうだよね」

なんて心配してくれた。

 

 

 

6月あたりに、同じクラスの女子といろいろあって

私は私の意見を言っただけだったのが、少し違うふうに受け止められてしまって、思ってたのと違う感じになってしまったことがあった。

 

ここらへんはまた別で書くけど、私が一人になる片鱗の出来事だった。

 

 

 

夏休み中、希望者はオーストラリアへ2週間のホームステイができた。

 

森田が将来を決めているなら、私も自分の好きなことで夢を持ちたい、好きな英語で仕事に就きたい

おんぶに抱っこじゃなくて、並んで歩きたい。

そういう想いもあって、応募した。

実際、オーストラリアは楽しかった。

今でもいい経験だったと思ってる。

 

 

 

だけど、私がホームステイに行ってる間も夏休み補講で他のみんなは会ってたわけで、帰ってきたら、完全にハブの空気だった。

 

同じグループでいるのに、明らかに私の話には薄く反応したり、気まずい反応でかえってきたり。

“嫌い”と率直に言われた方が、まだマシだった。

微妙に頭はいいヤツらが集まってるから、自分が悪くなる立ち回りはしたくなかったんだろうね。

 

 

 

だから私は、自分の意志で一人を選んだ。

もともと別に、この子好きだな、と思えるような子もいなかったし。

高校は、勉強だけ頑張ってやる。

どうせここはただの、通過点でしかない。

そう壁を作って。

 

 

 

森田には何も話さなかった。心配させたくなかった。

ただ、森田はなんとなく感づいていたみたいだった。

 

「花、中学の頃よりイライラしてる感じがある。」

 

そう唐突に言われたことがあった。

 

「そう?疲れてるのかな。嫌な想いさせてたら、ごめん」

 

「…学校は大変?」

 

「うーん、それなりにね。でも、頑張ってるよ。

森田は?この間の大会、どうだった?」

 

「出れたけど、まだまだ全然だめ〜。先輩がさあ…」

 

なんて、森田に部活や学校の話をさせて、自分のことは誤魔化した。

 

 

 

帰りにポツリと

 

「花、自分のこと、一番大切にしなよ」

 

と言われたことだけは覚えてる。

心配と、少し悲しそうな目だった。

 

 

 

 

 

ある日、電車で寝過ごしてしまって都内の方まで乗っていってしまったことがあった。

慌てて引き返して終電あたりに乗って帰ってきたけど

家についたのは深夜。

寝過ごしたと言っても信じてもらえず、お父さんがガチ切れして、ケータイを折られた。

 

学校でも一人だし、地元の子は近くにいないし

お兄ちゃんはいないとはいえ、もともと家の中で理解者はいなかったし

森田との連絡手段だったケータイも無くなってしまった。

 

それでも、それでも。

 

“大丈夫”

ネックレスを見ながら、自分に言い聞かせてた。

 

 

 

ケータイを持つのを許されるまでは、アパートからすぐ近くの公園の公衆電話で森田と電話した。

そんなにお金持ってないから、全然話せなかったけど。

何ヶ月かしてやっとプリペイド式のケータイ持たせてもらったけれど

ケータイが無い状態に慣れつつもあって、だんだんと連絡頻度は減っていった。

それでも、“森田と私は繋がってるから大丈夫”とほぼ何も考えることなく思っていた。

 

 

 

その頃にはN子やEちゃんともよく一緒にいるようになっていた頃だったから、一時期より孤独は感じなかった。

だけど、中学の頃の私は、中学までの友達にしか見せれなくなっていて。

もうそれは、意識しなくともそうなってしまっていて。

自分のことや悩みとか、もちろん家族のことも話さず、人の話ばかり聞いていた。

そうすることが、高校という環境の中の、【私】の保ち方だった。

 

 

 

大丈夫。

私をちゃんと知ってくれてる人はいるから。

 

ぐらぐらと不安定な足場で、必死に立っていた。

それでも、私には森田という理解者がいる。

その光が、なんとか私の気持ちをあたためていた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな状態の時に、見てしまった。

森田が、女の子と一緒に笑いながら駅の改札を通っていく所を。

 

 

 

その瞬間、がらがらと、自分の足場が崩れる感じがした。

 

 

 

 私だけが。

私だけが、大切にしようとしてたんじゃないか。

 

だってあいつは

 

中学時代だって、誰かと付き合ってても私に手を出してきてた。

 

私の他にもいるっていう可能性だって、あったじゃないか。

 

こっちは高校に入ってから、男子と全く関わらなかったのに。

 

離れてしまう分、心配の種になるようなことは避けてきたのに。

 

森田に心配かけたくなくて言えなかった悲しい感情が、心の中で出口を見つけられず彷徨う。

 

こんな私じゃやっぱり、支えにならなかった?

 

 

 

 

 

家に帰るまでの間、そんな思いがぐるぐる頭の中を巡った。

 

何かを確かめることさえ、もう怖くて。

森田を信じること自体が、怖くなってしまった。

 

 

 

だけど、あんな光景は中学時代だって見てきたのだ。

こんなことで、崩れそうになるなんて。

そのことが一番、引っかかった。

 

そして思い至った。

 

今の私の存在意義は、森田に繋がることしかないじゃないか。

 

 

こんなの、ただの依存だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“別れよう”

 

メールを送ってすぐ、電話がくる。

 

「本気?なんで??もうすぐクリスマスだから、一緒に過ごそうって言ってたじゃん」

 

真剣なトーンの森田の声。

多分、さっき見た光景に裏切りなどないとわかった。

 

だけどその言葉すらもう、受けとる余裕はなくて

 

森田に未だ寄りかかってる自分自身が

一番怖かった。

 

 

 

「…ごめん。別れて」

 

「…なんでいつも、勝手に決めちゃうんだよ。」

初めて、苛ついたように言われて。

 

「…」

 

「…わかった。花がそう言う時は、撤回はないって、もうわかってるから。

じゃあ、ばいばい」

 

森田の穏やかな口調とは違う、吐き捨てるような言い方が、頭の中をリピートする。

 

 

 

 

 

だけど、引き返せなかった。

 

これ以上は、しんどい。

これ以上は、間違っていく気がする。

 

 

 

 

 

ネックレスを外す。

 

もう、恋愛としては無理だ

 

そう呟いた瞬間

 

心の中で今まで大切に守っていたものが、パリーンと割れた。