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フィクションか、ノンフィクションか。

すでに別れ始めていた道

自分から、森田のタバコの匂いがする。

なんだか、とても疲れた。

 

【結婚しようね】

 

中学卒業アルバムに書かれた、どでかい字をなぞる。

 

ねえ、森田。

 

森田はこれを書いてくれた時

どこまで本気だったかな。

私は、これを書いてくれた時の森田の表情も

感じた愛しさも嬉しさも

まだ鮮明に覚えてるよ。

 

私は、本気だったよ。

 

 

 

 

 

だけどさ

 

大切で大好きになればなるほど

自分が重たくなっていくの。

 

 

ありのままの自分が出せなくなっていく。

 

 

 

弱い自分じゃなくて

森田と並んで歩ける自分で

 

負担にならないように

恥ずかしくないように

嫌われないように

 

 

 

そう思って付き合うのって

実はとてもしんどい。

 

 

 

あの日

森田が他の女の子と帰ってるのを見ただけで

自分の存在が消えてしまいそうになるような

あんな感情はもう持ちたくない。

 

 

 

さっき初めて森田としたけど

sとは感じない緊張感や恐怖心。

慣れや回数の問題じゃない気がした。

 

たぶん、私の心の問題。

森田にだけ働いてしまう、好きの裏返しの強いガード。

 

 

 

【好き】

だけど

 

物事にはすべて

【適切な距離】

ってものがある。

 

 

 

私は

森田とはもう、恋愛はできない。

いくら好きでも、心がしんどい。

 

別れた時も思ったけど、改めて思う。

中学の頃のまま、成長しなければ

森田といられる時間はただただ幸せなものだったのに

もう、あの頃には戻れない。

 

 

 

だけど森田には恩があるから

まだ何も返せてないから

力になりたいから

人生の中から消したくないから

 

 

森田からも関係性を明言しないのをいいことに

細くでも繋がってられる道を選んだ。

 

 

 

 

 

高2から卒業までは2回くらいしか会った記憶がない。

 

普段は全く連絡とらないし

どちらからともなく(ほぼ私だったけど)連絡を入れて、久しぶりに会おう、となる。

そこらへんは、女友達と会う時の気持ちとほぼ変わらなかった。

 

 

日々、自分の生活を頑張って

sとも週末デートを重ねつつ

そうこうしているうちに、森田への気持ちは

本当に恋愛感情ではないなぁ、と認識するようになった。

【特別な存在】であることには変わりなかったけど。

 

その頃、福祉のボランティアも行ったりして

老いや結婚についての具体的な価値観とかが生まれていた頃だった。

綺麗なところだけ見せてればいい恋人とは違って

健やかな時も病める時もずっと一緒で

結婚は汚いところも見せ合うことになるし、受け入れていかなければいけない。

 

 

私は、受け入れる方はできても

自分の汚いところを見せるって考えたら

それができる人ってまだいないなって思った。

森田になんて、絶対見せたくない。

見られたくない。

だから、将来的に考えても、森田と恋愛関係になるのは結局無駄でしかない。

 

 

あの約束は、私にとってとてもとても大切なもので

果たせたらいいな、という気持ちも実はある。

なぜか心のどこかで、そうなる、と確信していた中学の頃の自分がまだいる。

 

だけど、冷静に現実を見て割り切って考える自分もたしかにいた。

 

 

 

 

 

高3の冬

sは卒業したら自衛隊に入ることになっていて

平日は連絡とれる時間が決まってるけど、休日は必ず会おう、などなど今後の話をしていた。

そして急に、「結婚しよう」と言われた。

 

その言葉に、素直に嬉しいとは思えなかった。

 

 

“森田との約束はどうなるんだろう”

 

 

今は恋人でもなんでもないのに

なぜかその想いがちらついた。

そんな自分が笑えた。 

割り切った考えをする自分もいるくせに。

森田はあの約束、もう覚えてすらいないかもしれないのに。

 

 

 

 

 

その数日後、森田とも会った。

 

「俺さ〜、実はmちゃんとまた付き合ってるんだよね。」

 

と言われても、ショックも何もなかった。

ああ、やっぱりね、より戻したんだ。

それが正直な気持ちだった。

 

 

「でさ、卒業して、何年か働いたら、結婚しようって話でてるんだけど」

 

そちらもか。

 

「……どう思う?」

 

なぜ私に聞くのか。

 

「いや、そういう話が出てるんなら結婚しなよ。」

 

そう、それでいいと思う。

私に確認することじゃない。

 

「…そっかぁ。」

 

そう呟く森田を見て、あれ?と思った。

 

もしかして、あの約束を大切に想っているのは

私だけじゃなかったのかもしれない、とふと思う。

 

 

だけど、森田から何か言うわけでもない。

 

 

いくらガキなりに本気といえども、中学の頃の約束だ。

私も今更、森田に約束のことを話す勇気はなかった。

 

「私も彼氏からそう言われてるからなぁ。」

 

わざと軽く言う。

お互い相手がいるんだ。

この関係性の方が、タブーなんだから。

 

 

「森田は卒業したらやっぱ消防士になるん?」

 

「そうだよ〜。専門学校的なとこ行って、1年は座学?とかいろいろあるらしい」

 

「そっかぁ。中学の頃からの夢、叶えるんだね。」

 

結婚の約束をした日に、消防士の夢も聞いた。

これを覚えてるってことは、もう一つもちゃんと覚えてるよって、ハッキリとは言う勇気がないから

暗に意味を込めて。

 

 

「みんな、大人になってくね。」

 

 

 

小学生の頃の森田。

中学生の頃の森田。

そして、高校を卒業しようとしている森田。

全部見てきた。

 

変わっていくのは、仕方ないことだ。

 

それでも、こうして少しの時間だけでも会えれば。

いつの時代の森田も見れることができるなら。

 

それで良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高校卒業。

大学入学。

福祉を志す仲間に溢れたこの大学は、気持ちのいいメンバーばかりで、とても楽しい。

中学が陽(っていってもそこまで陽じゃないんだけど)

高校が陰だとして

そのどちらもを兼ね備えた自分でいられるようになった。

めちゃくちゃ笑うようになった。

高校では男子と全く話さなかったけど

大学では男女共に仲良しでいろんな話をした。

sとは付き合ったまま、土日は私が都内まで会いに行って、泊まって帰って来る。

空いた時間はバイト。

そんな日々だった。

 

 

 

地元の友達も、進学する子、就職する子、様々で

いろんな話が聞けて楽しかった。

 

みんな大人になっていく。

世界が変わっていく。

 

 

大学1年の夏頃

ふと、森田はどうしてるかと気になって連絡して会うことになった。

 

 

「もう、大変だよ〜」

 

相変わらず、省エネゆるゆるな森田も、頑張ってるらしい。

夢への一歩を踏み出した森田を見れるのは嬉しい。

素直に応援したい、と思う。

 

 

「そういえばさ、俺、mちゃんにフラれちゃった。」

 

「え?なんで?結婚の話は?」

 

「んー。結婚どうするって言われて、俺がなかなかハッキリしなかったから、じゃあ別れるってフラレた。」

 

寂しそうに笑う森田。

中3の生徒会室を思い出す。

 

 

「なんで?ちゃんと別れるのやだって言ったの?」

 

森田は、別れようって言われたら、本心を隠してサラッといいよ、と言ってしまうような気がした。

引き止めるのはカッコ悪いって、たしか前に言ってた気がする。

 

 

「結婚、したかったんじゃないの…?

mちゃんとより戻した時、本気だって思ったよ。

本気ならちゃんと気持ちぶつけないと駄目だよ」

 

「ん〜、まあ、いいんだよ。仕方ないよ。」

 

こてん、と私の肩に頭を置く森田。

 

なんで引き止めないの、もっと素直になればいいのに

と思った時

 

小学校の時に泣いた森田を急に思い出した。

 

 

…そういえば、あれ以来、森田って泣かないよな…

 

 

まさか、私とのあれがトラウマになってるとかじゃないよね…?

 

なぜか急にそんな罪悪感をおぼえた。

 

 

 

 

 

 

大学1年の晩秋

sが浮気してることが判明。

3年付き合って、あっけなく終わった。

 

森田とのことがあるから、私は責められない。

付き合っていながら、特別な存在がいる。

不誠実なのはむしろ、こっちだ。

 

だけど

やっぱり、恋愛って終わりがくるんだなー

なんて思って、少し(結構?)荒れた。

 

 

 

付き合うとか明確な関係性じゃなく

全然違う大学の人や、趣味サークルで出会った人、mixiでよくコメントくれてた人、4人くらい同時に関係をもってる時期もあった。

ワンナイトの人もいたし、中には本気で思ってくれる人もいたけど、全部、本気になれなかった。

ただ、友達では埋められない心の何かを埋めるためでしかなかった。

 

 

 

 

 

その年の大晦日は、森田と過ごした。

大学入ってから会うのは2回目。

お互いフリーで会うのは久しぶり。

 

だけど、森田と肌を重ねながら

私も随分と汚くなったもんだな~、とぼんやり思った。

中学の頃のうちらが眩しい。

あの頃の私に、顔向けできない。

 

 

 

消防訓練に向けて筋トレを始めたらしい森田は

ホテルの鏡で自分の身体をチェックしている。

それを見て、若干ひく。(失礼だけど、筋肉苦手)

 

 

そうか

やっぱり変わっていってしまうんだ。

その現実を受け止めたくないだけなんだ。

 

 

 

今の森田の中に、昔の森田を見ると安心するから。

 

森田が変わってないところを見ると

あの頃の私達がまだ生きてるように感じるから。

 

眩しいくらい、純粋に想えてた頃と

何も変わってない、と思いたいだけ。

 

 

 

だけど

お互いフリーとわかっていながら

何も言わない、この関係性はなんだろう。

 

 

私は、なんの役にたってるっていうんだろう。

こんなの、ただの安い女じゃないか。

 

 

 

 

 

私、しっかりしないとな。

 

隣で眠る森田を見つめて、そう思った。