約束

私はもちを頼ったり、信頼してるけど

それはもちが私の話を聞いてくれたり、あの日会いに来てくれたりと、私の心の支えになってくれたからだ。

 

 

じゃあ、もちはどうなんだろう?

 

私は、もちに何かしてあげられてきただろうか。

もちはいつも穏やかで、達観してて、悩みなど聞いたこともなくて

力になりたい、なんて思いもしなかった。

 

生徒会室での弱々しいもちの呟く声が

私の頭から離れなかった。

 

 

kとは、1年近く付き合って、助けてもらったことや、恩もある。このことはまた別で書く。

だけどどうしても、もちのことが気になって仕方なかった。

このままだと、kだけをちゃんと見ることができないと思って

中3の秋に入る頃、生徒会引退の前に、kと別れた。

 

 

 

その後、もちとはちょくちょく話したけど

みんな受験に向けてだんだん忙しくなって、それぞれで頑張ってる感じだった。

たまにチャリ置きで会うと途中まで一緒に帰ったりはしたけど

記憶に残るほど何かあったわけでもなかった。

 

 

受験が終わって卒業を待つ頃

もちが「さやかどこの高校行くん?」と聞きに来たことがあった。

「私、A高」

「まじか〜。じゃあ、あー子(双子の片割れ)と一緒だ。」

「そうなんだ。もちは?」

「俺、B高。駅同じだから、高校行っても近くだな〜」

なんて、その時初めてお互い受験してた高校を知ったくらいだった。

 

そのまま一緒に帰りながら、久しぶりにいろいろ話して、多分その流れでまた付き合うことになったんだったと思う。(なぜかいつも付き合う過程は忘れてる)

 

次の日だか、帰る時に体育館の近くを通ったら

バスケ部がob戦をしてるっぽかった。

ユニフォーム姿のもちが、体育館から私を呼びながら出てきて

後ろには同じバスケ部の男子が数人いた。

 

もちは私に近づいてきて、顔を見たままぐっと、体を引き寄せた。

その時の目が、嬉しさと、捉えて離さないような雄のような強さもあって

心がぐっと掴まれそうになって慌てて目をそらした。

もちは、普段飄々としてて省エネ〜な感じのくせに、こういう目をたまにする。

感情を全部目に宿したかのような、そういう目。

 

後ろで男子も見てるし、がっつり照れた私を見て、満足そうに笑って戻っていった。

 

 

 

卒業に向けて、『20歳になった自分へ送る手紙』の作成が授業であった。

20歳になった時に、郵便で送られてくるシステム。

未来の自分に向けた手紙と、もちにも私宛に書いてもらって、一緒に封筒に入れた。

もちろん、私も、もちにそうした。

 

mちゃんともちが付き合ってた時に、『私は本物じゃないかもしれない』と今こうしていることは当たり前じゃないことに気づいた(今更)ことから

『今回は、今まで以上に大切に付き合っていこう』と思っていた。

 

20歳になった私達が、どうか、二人して一緒に手紙を読んでますように、と願った。

 

 

3月

私の誕生日のお祝いを、もちの部屋でしてくれた。

お互いのアルバムに寄せ書きをする予定だったため持って行ったら

「…めっちゃハズいんだけど〜」

と、珍しく赤面しながらもちが言うので見てみたら、どデカい字で

【結婚しようね】と書かれていた。

 

「…本気?」と聞くと

「本気じゃなきゃ書かないでしょ」と、耳まで真っ赤にして言うもちが、まだガキながら、とても愛しかった。

 

一緒に布団にもぐりながら(結局中学時代は最後まではしてないんだけど、私はいろいろ指南された)

「もちは、高校で何頑張りたいの?」

希望した高校だと聞いていたので聞いてみる。

「高校はもっとバスケ頑張りたいんだ〜」

「そうなんだ。応援する。」

「お〜。高校が終わったらさ、もう大人って感じがするな〜。」

「大学とかは行かないの?」

「俺、消防士になりたいんだよね。体動かすのが好きだし得意だから、そういうの活かせる仕事って消防かなって。高校終わったら、そっち系の勉強するつもり。」

「……へぇ。そうなんだ。」

 

なんだか、びっくりだった。

私なんて高校受験すら決められなくてサボり、将来何がしたいかすら全くもって視えてないのに。

もちが、そんな先までもう人生を描いてるなんて、初めて知った。

 

「消防ってさ、休み多いらしいよ〜。だから、さやかと結婚したら、一緒にいられる時間も多いし。」

なんて笑うもちを見ながら、“私も、もちと並べられるようになりたいな…”と思った。

 

「…私ね、結婚する条件1つだけ譲れないのがあるんだ。

お父さんからずっと言われてることなんだけど、私も自ら体を悪くするようなことはしてほしくないって理由で決めてることがある。」

「なに?」

「たばこを吸わないこと。これは結婚するなら守ってほしいことかなぁ。」

「そっか。わかった。」

 

帰り道にニケツで送ってもらいながら、私は少し考えていた。

 

もちにとって、私は力になれる存在だろうか。

相談すらされたこともないし、私ばかりがもちに泣いたり弱音はいたりして

もちは負担にならないだろうか。

 

「もちー」

「なにー」

「もちはさ、私に相談とかしないじゃん。私はもちの力になれてる?」

「んー…今はまだ、悩むってほどのことがないからなあ。悩んでもわりと自分で決めちゃうからな~」

 

チャリをこぐもちの背中に、ぴったりくっつきながら、自分の頼りなさを心の中で嘆く。

 

「さやかは、何もしてくれなくても、俺のそばにいてくれるだけで力になる。」

 

その真っ直ぐな言葉は、あたたかくて

こっそり泣いたのは内緒。

 

 

春休みに入り

お互い初めての違う学校生活になるから

「いつもお互いを想うことの証に、イニシャルの入ったネックレスつけよう」

と提案したのは、もちだった。

 

「お互いに、お互いの似合いそうなやつ探してこよう」

 

私は男の子にプレゼントを買うなんて初めてだったから、すごく悩んだのを覚えてる。

もちが選んでくれたのは、華奢な筆記体のようなMを形どったネックレス。

 

これがあれば、学校内で会えなくても、嫌なことあっても、一緒にいるね、と言って。

そしてお互いにネックレスをつけあって、照れ隠しに笑った。

 

 

 

ガキながら、真剣な約束だった。